2022年 ホームドア関連のトピックスを振り返る

あけましておめでとうございます。2023年も当Webサイトをよろしくお願いいたします。

さて、当サイトでは鉄道駅のホームドアについて紹介する記事が専らメインコンテンツと化していますが、新年最初の記事は新しい企画として、2022年に起こったホームドア関連の出来事や話題について振り返ってみたいと思います。

1 2022年に新設された注目のホームドア

1.1 京阪 京橋駅1・2番線

京阪京橋駅1・2番線のホームドア
列車の停止位置やドア開閉・ドア数を検知する各種センサ

まずは2022年内に新設された国内のホームドアの中から、技術的・趣味的に注目したい4駅を紹介します。

京阪電気鉄道京橋駅では、1月から2月にかけて同社初となるホームドアが1・2番線に整備されました。ホームドアに対応できない5扉車の5000系が前年に引退したことで設置が実現するも、それでも車種によってドア位置が多少異なるため、最大開口幅約4.5mの二重引き戸式大開口ホームドアが採用されています。

一番の特徴は開閉システムです。地上側の各種センサが編成両数や車両ドア開閉を検知してホームドアを自動開閉する「地上完結型連携システム」ですが、京阪では車両ドア開閉検知センサがドア自体の有無も検知することで、2ドア車と3ドア車ならびに一部列車の6号車に連結されているプレミアムカー(1ドア車)を判別します。

1.2 JR東日本 南武線 武蔵小杉駅

JR南武線武蔵小杉駅のホームドア

3月13日、JR南武線武蔵小杉駅で同線初となるホームドアが稼働開始されました。ホームドア自体は京浜東北線などと同型のJR東日本標準タイプですが、総武快速線新小岩駅などで採用された従来方式の無線連携システムよりもさらに低コスト化が図られた、RFIDタグを用いて車両とホームドアのペアリングを行う新方式の無線連携システムが初採用された点が特徴です。

一見地味な内容に思えるかもしれませんが、これがJR東日本で今後整備されるホームドアの標準的な開閉方式になる見込みで、公式サイトの「JR東日本発足からのあゆみ」にもピックアップされているほど、同社にとっては大きな第一歩だったようです。

1.3 阪神 神戸三宮駅2番線の昇降式ホーム柵

阪神神戸三宮駅2番線の昇降式ホーム柵
近鉄特急「Ace」は一部のドアが乗降不可能だった

3月27日、阪神電気鉄道の神戸三宮駅2番線で同社初となる「昇降ロープ式ホーム柵」が稼働開始されました。同駅の1・3番線には2021年に通常のホームドアが設置された一方で、2番線にはドア位置が大きく異なる近鉄の車両も発着することから、最大開口幅約13mを実現できる昇降式の採用に至りました。

7月24日にはホーム柵稼働後はじめて近鉄22600系「Ace」が団体臨時列車として同駅に乗り入れました。一部のドアはホーム柵の筐体と重なってしまうものの、「団体列車だからええやろ」と言わんばかりに強硬手段で乗り切る光景は多くの鉄道ファンに衝撃を与えました(?)

1.4 JR西日本 京都駅2・5番のりばの昇降式ホーム柵

2番のりば切り離し後の様子

JR西日本の京都駅では、3月6日に2番のりば、10月19日に5番のりばで昇降式ホーム柵が稼働開始されました。関西において昇降式ホーム柵は馴染みの存在になりつつありますが、同駅は定期列車で連結・切り離し作業が行われるホームにおける初めての設置例となりました。

連結・切り離しは1日1回程度しか行わないにも関わらず、それに対応するための制御システムと専用の機器が設けられています。一見非効率にも思えますが、将来もっと日常的に連結・切り離しを行う駅にホームドアを設置するための “実証試験” のような意味合いがあるのかもしれません。

2 ピックアップ:鉄道駅バリアフリー料金制度について

2022年を振り返るうえで欠かせないのが、多くの鉄道事業者から、鉄道駅のバリアフリーを推進するための新たな料金制度「鉄道駅バリアフリー料金制度」の適用および具体的な計画が発表されたことです。

この制度は2021年12月に創設され、東京・大阪・名古屋の3大都市圏において、ホームドアやエレベーターなどのバリアフリー設備の整備に充てる費用を、事前届け出のみで運賃に上乗せして徴収できるようにしたものです[1]旅客運賃を改定するには国交相の認可が必要。。2022年末までにJR3社を含む16社[2]ホームドアの整備は計画していない事業者も含む。から届け出が行われ、運賃の上乗せ額はいずれも10円が基本となっています。実際に運賃上乗せが始まるのは2023年3月や4月の予定ですが、事前届け出の際に公表された資料によって各社の具体的なホームドア整備計画が明らかとなりました。

阪急は2040年度末ごろまでに全86駅[3]他社管轄駅などは除く。へホームドアまたは固定柵を整備予定
まだまだ先は長い…

JR東日本はすでに発表していた首都圏330駅[4]駅数は線区単位で計上。ホームドア整備計画の目標を2031年度末までに1年前倒し、加えて使用頻度の低いホームも整備対象とされました。阪急電鉄と阪神電気鉄道は2040年代までに全駅へホーム柵(固定柵を含む)を整備すると発表。JR西日本は物理的な転落防止設備ではない「ホーム安全スクリーン[5]センサーにより乗客の転落を検知し、速やかに列車を止めるシステム。」の整備にもこの制度を適用するとしています。

3 その他の主な話題

3.1 Osaka Metro御堂筋線 全駅整備完了・開閉の全自動化

2022年3月、Osaka Metro御堂筋線なんば駅のホームドアが稼働開始されたことで、同線は大阪市交通局時代の2014年度から8年間をかけて全20駅のホームドア全駅整備を達成しました。

日本屈指の過密ダイヤを誇る同線においてはホームドア開閉に要するわずかなタイムロスが課題になります。これまでは開扉のみ自動、閉扉は車掌による手動操作でしたが、8月1日からは閉扉が車両ドア操作と連携化されたことで開閉の全自動化が実現。更なるタイムロス削減が図られました。

3.2 多くの路線で整備駅数が半数を超える

2022年が全駅整備完了の年になった路線は上記の御堂筋線だけでしたが、年内に整備駅数が半数を超えた路線は心なしか多かったように感じます。思い当たるだけで以下の5路線が該当し、なかでもOsaka Metro堺筋線は駅数自体が少ないとはいえ、堺筋本町駅(2019年度設置)以外の9駅はすべて今年度中に整備予定です。

  • 東京メトロ日比谷線(14駅/22駅)
  • 東京メトロ東西線(12駅/23駅)
  • 相模鉄道(14駅/26駅)
  • Osaka Metro堺筋線(7駅/10駅)
  • 神戸市営地下鉄西神・山手線・北神線(12駅/17駅)

※カッコ内は2022年12月末時点の設置駅数

3.3 QRコード式制御システム 神戸市では運用終了、JR東海では本格運用開始

デンソーウェーブと東京都交通局が共同開発した「QRコードを用いたホームドア制御システム」は、簡単・低コストに列車の編成両数やドア数を判別できる画期的な技術として、都営浅草線や京浜急行電鉄などで運用されています。

しかし、2020年3月からこのシステムが運用されていた神戸市営地下鉄西神・山手線の三宮駅では、2022年3月13日に別の制御システムへの更新が行われてしまいました[6]三宮駅以外の各駅で導入された地上完結型連携システムに変更。。これにより関西圏からはたった2年でQRコード式ホームドアが一旦消滅したことにもなります。

その一方で、JR東海は2020年度からQRコード検知用カメラの性能を確認する実証試験を東海道本線金山駅で開始し、2022年8月1日からは遂に実際のホームドア開閉制御にもQRコード式システムが適用されたそうです。年末には名古屋駅中央本線ホームへのQRコード式ホームドア設置も正式発表され(2025年設置予定)、こちらは継続的な採用が確実といえそうです。

4 おわりに

2022年は新型コロナウィルスによる経営への打撃、さらに深刻な半導体不足の影響でホームドアに限らずさまざまな分野で物資調達に遅れが生じました。2023年もその影響は続くと思われますが、各社で鉄道駅バリアフリー料金制度の適用が開始されるため、長期的に見れば整備促進に向けての意味がある年になるでしょう。

そして今年は3月18日に開業する大阪駅新ホーム(うめきた地下駅)の世界初・マルチフルスクリーンホームドアという特大のネタが控えています。ほかにも同日開業の相鉄・東急直通線や、小田急本厚木駅のロマンスカー対応大開口ホームドア(2月稼働開始予定)など、特殊なホームドアが続々登場するので個人的に楽しみです。

最後に今後の方針ですが、引き続きホームドア特集記事を月1~2本のペースで投稿し、それ以外にも1つ注目しているジャンルの連載も始めたいと思っています。

改めまして、2023年も当Webサイトをよろしくお願いいたします。

出典・参考文献

脚注

References
1 旅客運賃を改定するには国交相の認可が必要。
2 ホームドアの整備は計画していない事業者も含む。
3 他社管轄駅などは除く。
4 駅数は線区単位で計上。
5 センサーにより乗客の転落を検知し、速やかに列車を止めるシステム。
6 三宮駅以外の各駅で導入された地上完結型連携システムに変更。

コメントする